気がつけば年も明け、もう2月である。
毎年、年始年末は感慨深くなるものだが、この陽気な気候のせいか、不思議とそういった気分にはならなかった。
アメリカに来てもう1年、今回任されていたシステム開発のプロジェクトは既に山場は超え、後は安定運用へとソフトランディングさせるだけである。
今回のシステムはオープンソースソフトウェアをベースに開発を行ったのだが、アメリカに来て強く実感させられるのは数多くのオープンソースソフトウェアの台頭である。
一昔前、オープンソースソフトウェアと言えば、あまり予算がかけられないプロジェクトにおいて、自己責任のもとに採用しなければならない、それなりに勇気のいる決断だったが、今日の潮流を見ていると、既にオープンソースソフトウェアはソフトウェア開発においてメインストリームになりつつある感がある。
他のソフトウェア会社の開発者の話を聞いていても、自社製品のオープンソースプロジェクトを立ち上げているところは多い。
その一部は既に日本においてもユーザフォーラムが立ち上げるまでになっている。
オープンソフトウェアによって徐々にシェアを奪われるよりも、自社のソフトウェアをオープンソース化し、オープンソースソフトウェアプロジェクトの主導権を握り、
いち早くデファクトスタンダードを確立するほうが、自社の利益にもつながると、極めて戦略的な考え方を持っている。
日本においても同様の動きが見られるが、日本のオープンソースプロジェクトは単にソースコードだけを公開し、実際の開発は従来どおり自社で行っていることが多い。
それに対して海外のオープンソースプロジェクトは、世界中のソフトウェア開発者が参加し、初期の段階から多言語対応されているなど、
いち早く市場においてデファクトスタンダードを確立しやすい状況になっている。
日本のソフトウェア開発能力はアメリカのソフトウェア開発者に決して引けをとっていないが、戦略なきソフトウェア開発を続けているといずれ不利な状況に追い込まれる可能性が高いように思われる。
よく人と話していると議論になるのが、オープンソース・ソフトウェアが普及するとソフトウェア開発会社がいらなくなってしまうのではないかという話である。
オープンソース・ソースソフトウェアが普及すると、確かに基本的なシステム開発はいらなくなってしまうかもしれない。
しかし今までソフトウェア産業のその繰り返しでであるように、OSが統一され、フレームワークが統一され、そしてアプリケーションが統一されていく。
だからといってソフトウェア開発がいらなくなっていくかといえば、そうではなく、ソフトウェアがインフラ化し、さらにその上で動くアプリケーションやコンテンツの需要がより高まる。
既に携帯電話、テレビに見られるように製品におけるソフトウェアの比率はハードウェアに対してますます高くなる傾向にある。
またオープンソースソフトウェアを知ることはスキルの標準化にも繋がり、ポータブルスキルとなる。
泥沼化したプロジェクトや独自のシステムの仕様に縛られることも少なくなり、基本的なシステム開発より人に近い、サービスの開発に力をさけるようになる。
利用者によってもオペレーションが標準化され、恒久的なアップデートが受けられるなど恩恵は計り知れない。
今、オープンソースソフトウェアと同時に、最も関心を持っているのは RIA (Rich Internet Application) 開発環境である。
かつてソフトウェア・アーキテクチャーはホスト集中型、クライアントサーバモデル、そして現在主流のウェブアプリケーションへと変異してきた。
しかしウェブアプリケーションの UI の限界性は以前から指摘されていた。 そこで注目されているのが Adobe Flex/AIR, Microsoft Silverlight/WPF に代表されるような RIA 開発環境である。
これによってデスクトップアプリケーション並みの機能と操作性を持ったアプリケーションが、ウェブブラウザ上で実現できるようになる。
またこれにはもう一つ壮大な目的がある。
今のところ、PC、ゲーム機、携帯電話、テレビ、各種家電製品は全て独立したソフトウェア・アーキテクチャを持っているが、Adobe の推進するオープンスクリーンプロジェクトが本格化すると、ソフトウェア・アーキテクチャが統一化され、全てのデバイスを対象にソフトウェアが一元開発できるようになる。
これはソフトウェア開発者にとって極めて理想的な状況である。
まだまだ学ばなければならないことが山積みであるが、少しずつ未来像が見えてくるのはとても楽しい。
2009/02/02